my little underground

世を儚む地下生活者が珍文・奇文の類いを日々量産しています

イキウメ「天の敵」@東京芸術劇場シアターイーストを観る

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www.ikiume.jp

 ■ジャーナリストの寺泊 満(安井順平)は、菜食の人気料理家、橋本和夫(浜田信也)に取材を申し込む。
きっかけは妻の優子(太田緑ロランス)だった。
寺泊は難病を抱えており、優子は彼の為に橋本が提唱する食餌療法を学んでいた。

当の寺泊は健康志向とは真逆の人間だが、薬害や健康食品詐欺、疑似科学や偽医療の取材経験も多く興味があった。
優子がのめり込む橋本を調べていく内に、戦前に食餌療法を提唱していた長谷川卯太郎(松澤 傑)という医師を知る。

寺泊は長谷川と橋本の容姿がよく似ていたことに興味を持ち、ある仮説を立てて取材に望んだ。
寺泊は、プロフィールに謎の多い橋本は長谷川卯太郎の孫で、菜食のルーツはそこにあると考えた。
橋本はそれを聞いて否定した。
実は橋本は偽名で、自分は長谷川卯太郎本人だと言う。

 いやもう、粗筋を読んだ時に感じた「キテる!」という予感は、やはり間違っていなかった。

 

冒頭の「3秒クッキング」(←劇中にそういう場面があるのです)、実際に料理をし始めて劇場内に美味しそうな匂いが漂い始めたところで「ここから一体どうなっていくんだ?!」と思ったら、そこからは期せずして寿命という概念を超越してしまった男の一代記が自身によって語られていく。

 

食べること…健康…引いては生きることとは…? 話が進めば進むほど、「生」という問いに関わってしまったそれぞれの登場人物にとって幸せな状態とは何だったのかがよく分からなくなっていく。結局のところ、ほぼ全員不幸な気さえしてくる。

(敢えて言うなら時枝が自分の思想に殉じたという点で幸せなのかも)

 

自分も「気が付けば人生も後半のページ」状態に突入しており、今後の生き方についてはボンヤリながらも考えなくはないのだけれど、この劇を観て増々分からなくなってしまった。でも考え続けなければならないんだろうなあ。そして最後は鰻を美味しく食べられるくらいの身体をできるだけ長く保っていきたい…なんてことを考えるのであります。