my little underground

世を儚む地下生活者が珍文・奇文の類いを日々量産しています

映画「パターソン」を観る

コレはちょっと自分の中でかなり大事な作品になりそうな気がする。予告編を観た段階で、なんかよく分からんが惹かれるモノがあったんだけど。

 

paterson-movie.com

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代わり映えのない日常を淡々と描写しているだけのように見えて、ミニマルな構造ゆえ微妙な差異が浮き出てくるように角度をズラす手管の素晴らしさ。そして主人公の持つ「詩人という視点」が世界の豊かさをアタクシのような凡百の徒にも気づかせてくれる。

 

アタクシ、バスの運転手ではないんだけど、ルーティーンを回すという意味では割りと似ている仕事をナリワイにしておりまして。そして実はその職業に就いているということに対して「このまま刺激のない毎日を過ごしていると、いつのまにかつまらない人間になってしまうんではないか?」みたいな漠とした不安を抱えておるのです。「じゃあユーは現在それなりに愉快な人間であるのだな?」と問われたならば、ぐぬぬと言葉を濁すしか無いのだけれど、映画を観終わった時に「その不安は仕事とは関係ないし、不安に対して抗う工夫のしどころはまだまだあるんだ」みたいな、ちょっと自分の人生が肯定されたような気分をじんわり感じてしまったのであります。

 

アタクシは、前々からこの生きづらい世の中をサヴァイヴして行くために必要なことは、すなわち知識と想像力、そしてユーモアだと思っていたのだけれど、そこにもう一つ「観察力」という要素を加えたいと思う。この映画はそれをアタクシに教えてくれる。主人公パターソン氏は詩作という世界の関わり方で、世界を豊かな色彩に変えていく。「代わり映えのない日常」なぞ基本的には存在していない。ただあるのは「日常」を変わり映えあるものにするのか、それとも無いものにするのか、その能力の有無だけなのでないかと。最早そのことに気づいてしまったので、今後の人生をご機嫌に暮らしていく為にも、その能力を伸ばす為に色々とやってみようとアタクシ思うのであります。ありがとうジャームッシュさん。

 

まあなんか柄にもなく固めなことを吐露してしまいましたが、それ以外にもこの映画「嫁さんが美人過ぎて、それだけでもう主人公にジェラス」とか「マーヴィンの可愛さは異常」とか「コインランドリーでメソッド・マンがラップしてた内容が知りたすぎる」とか色々と語りたい部分があるのも事実。だからみんなこの映画観て欲しいなあ。

 

まあそれ以上に、観終わった時に感じた嬉しさみたいな感情を記録しておきたくて、この文章をここに記し、そして唐突に終わるのであります。

 

 

パターソン

パターソン

 
ウィリアムズ詩集 (海外詩文庫)

ウィリアムズ詩集 (海外詩文庫)

 

 

 

 

sora tob sakana 定期公演 ~月面の遊覧船~ 37匹目@恵比寿CreAtoを観る

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前の週に急遽開催された定期公演はHomecomings@WWWと丸かぶりだったので断念。リベンジの意味も含めて行ってきた。

 

今回の目玉はアコースティックセット。どんな形になるのか、どの曲を演るのか、期待度MAXで恵比寿CreAtoにin。通常のセットと異なるからなのか、開演時間から10分押しでライブスタート。前回公演で初披露されたという新曲を今回は演ってくれるのか、ちょっと楽しみにしてたんだけど、残念ながらセトリに無し。無念。

 

中盤にねんがんのアコースティックセット。g・key・perの3人体制のバンドをバックに、横並びの4人がしっかりと歌を聴かせるというスタイル。いや、コレかなりいい感じですよ。元曲にあった骨格の良さというか、芯の強度のようなモノが露わになったというか。やはりsora tob sakanaの楽曲は「ポストロック」とか「エレクトロニカ」みたいな、ある種のジャーゴンで語られることで煙に巻かれていた部分があると思うのだけれど、アコースティックセットによって諸々の外装を剥いでいくと、実は「うた」として異常に高水準だったことが非常によく分かる。この試みは今後も折りに触れ続けて欲しいと思う次第。今回のアコースティックセットで披露された楽曲以外の曲たちも、このセットではどのような輝きを見せくれるのか、とても気になるしスゴく楽しみ。

 

セット終わりでギターの照井Pが「こんな難しい曲を歌えるすごい子達です」と4人を褒めていたけど、アタクシもホントそう思う。このまますくすくと成長していったら一体どんなことになってしまうのやら。いやー楽しみであります。

 

藝「大」コレクション@東京藝術大学大学美術館を観る

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「深海2017」@国立科学博物館が予想以上に混雑しているっぽかったので、予定を変更して観に行ってきた。いや、元々観に行こうと思ってたんですけどね。

 

藝大と言えば歴史も古いし、収蔵しているお宝も山のようにあるんだろうなあと思ってたら、やっぱりそうでした。

 

実はこういったコレクション形式の、制作年代やら制作場所やらがごちゃ混ぜの各種取り揃えタイプな展覧会ってあまり観たことがなかったので、三歩歩くと時代を軽く数百年飛び越えてる事実にちょっとクラクラしてみたり。でもこういう形式も何が出てくるか分からない分、ちょっと楽しい。

 

個人的ハイライトは過去の藝大卒業生たちが卒業制作として残していった自画像の数々。美術界にそれ程明るくないアタクシですら名前を存じ上げているアーティスト達の若き日の作品群。中には「ははあ、コレはやってしまいましたなあ」的な青さ全開のブツもちょいちょい見受けられるのも楽しい。山口晃の作品はさすがのブレなさでちょっと笑う。イヤ、大好きです。

 

最後にあの有名な高橋由一「鮭」がドーンとあって、ちょっと感動。初めて見たのは美術の教科書じゃなくて切手だったような覚えがある。本物、ちゃんとあるんだな(←当たり前)

 

というワケで、色々と楽しませて頂きました。

 

サニーデイ・サービス サマーライブ2017@日比谷野外大音楽堂を観る

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先日観たTHE MATSURI SESSIONで野音というハコのスペシャル感を遅ればせながら体感したアタクシ。即完したらしいチケットを幸運なことに入手できたのでサニーデイを観に野音再訪してきた。

 

サニーデイを観るのは渋谷のさくらホールでの「東京」20周年記念コンサート以来。あの日も数分おきに涙腺を刺激される素晴らしいライブだったが、今回もド頭の「今日を生きよう」のイントロが流れた瞬間からもうダメ。暮れゆく夏の日差しの中、缶ビールで軽く酔ってる脳味噌には早くも感動でいっぱいに。

 

元々サニーデイはリアルタイムで聴ける立場にあったにも関わらず、初期のフォークっぽい感じがどうも馴染めず、長い間食わず嫌いをしていて、「MUGEN」が出たあたりでようやくその素晴らしさに気づき、「LOVE ALBUM」を完全リアルタイムで「最高だ!」なんて言ってたら、程なくしてサクッと解散しちゃってショボーンとなった悲しい思い出のあるバンドなのです。そして遡って旧譜を聴くようになり、「愛と笑いの夜」「24時」をかなり繰り返して聴いた思い出があるので、今回のセトリはそりゃあ涙が出るというもの。この季節に野外で「サマー・ソルジャー」が聴けるなんて当時のアタクシに教えてやりたい。

 

そんな中「苺畑でつかまえて」や「セツナ」が昔の名曲たちに負けない強度を持っていることがライブの流れの中で確信できた嬉しさたるや。サニーデイは未来を生きてるバンドなのだなあ。

 

完全に日が落ち、夜の帳に包まれた中で聴く「夜のメロディ」。あゝ、解散の報を聞いてショックを受けた日のことが蘇る。でも素晴らしいメロディは、時の流れなんて軽々と飛び越えてアタクシの心にじんわりと感動を運んできてくれる。カタキは取ったぞ。あの頃の自分よ。

 

 

どんな形でも続いていれば、生きていればなんか座りのいい場所にストンと収まることがある。そんなことをおじさんになった今ならば理解できる。コレって言うほどダメなことじゃないんだぜ、と声を大にして…いや小声で表明していきたい。そんなことをつらつらとと考えるライブなのでした。

 

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